親からアパートやマンションを相続することになったとき、多くの方がまず気にされるのは「相続税はいくらかかるのか」という点です。
もちろん、相続税は大切な問題です。相続税には基礎控除があり、正味の遺産額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合には、相続税の申告・納税が必要になる可能性があります。
しかし、賃貸物件を引き継ぐ場合、本当に注意したいのは税金だけではありません。相続が終わったあとに、空室、家賃滞納、修繕、入居者対応、管理会社との連携不足など、さまざまな管理トラブルが表面化することがあります。
特に、これまで親が長年管理していた物件の場合、相続人が物件の状況を正確に把握できていないケースも少なくありません。
「相続税のことは税理士に相談して進めたけれど、物件の管理状況までは確認していなかった」
このような状態で賃貸経営を引き継ぐと、後から思わぬ問題に直面することがあります。
今回は、賃貸物件を相続した後に起こりやすい管理トラブルと、事前に確認しておきたいポイントについて、管理会社の視点から分かりやすく解説します。
相続後に起こりやすいのは「税金」だけではない
賃貸物件の相続というと、相続税、名義変更、遺産分割などの手続きに目が向きがちです。
実際、不動産を相続した場合には、相続登記の手続きも重要です。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から一定期間内に申請が必要になります。
ただし、手続きが完了したからといって、賃貸経営が自動的にうまく回るわけではありません。
賃貸物件は、所有しているだけで収益が安定するものではなく、日々の管理によって価値が維持されます。入居者対応、建物メンテナンス、賃料管理、募集条件の見直しなどを継続的に行う必要があります。
相続人が不動産管理に慣れていない場合、こうした実務面でつまずいてしまうことがあります。
トラブル1:物件の収支が見えなくなる
相続後に多いのが、物件の収支を正確に把握できていないケースです。
毎月いくら家賃が入っているのか。
管理費や修繕費はいくらかかっているのか。
固定資産税や保険料、借入金の返済はどの程度あるのか。
こうした内容が整理されていないと、「一見すると家賃収入があるのに、実際にはあまり手元に残っていない」という状況になりかねません。
たとえば、古いアパートを相続した場合、家賃収入は毎月入っていても、退去のたびに原状回復費用がかかり、さらに給湯器やエアコン、外壁、屋上防水などの修繕が重なることがあります。
その結果、年間で見ると収支が大きく悪化していることもあります。
相続直後は、まず過去1年から3年程度の収支を確認することが大切です。家賃収入だけで判断せず、修繕費、管理費、税金、保険料、借入返済などを含めて、実際の利益を把握しましょう。

トラブル2:入居者情報が整理されていない
次に注意したいのが、入居者情報の管理です。
賃貸借契約書はあるのか。
保証会社は利用しているのか。
連帯保証人は現在も連絡が取れるのか。
滞納履歴や過去のトラブルはないのか。
更新手続きは適切に行われているのか。
これらの情報が整理されていないまま相続すると、後々の対応が難しくなることがあります。
特に、昔から長く住んでいる入居者がいる物件では、契約書が古いままだったり、更新契約が曖昧になっていたりすることがあります。
また、親が個人的な関係性で入居者対応をしていた場合、相続人が同じように対応できるとは限りません。
「昔から住んでいるから大丈夫だろう」と思っていた入居者が、実は家賃の支払いが遅れがちだったというケースもあります。
相続後は、入居者ごとの契約内容、賃料、入金状況、保証会社の有無、過去の対応履歴を確認しておくことが重要です。
トラブル3:家賃設定が現在の相場と合っていない
相続した物件では、長年家賃を見直していないケースがあります。
親の代から同じ家賃で貸し続けている場合、周辺相場より高すぎる、または安すぎることがあります。
家賃が高すぎる場合、退去後の募集で苦戦する可能性があります。逆に、家賃が安すぎる場合、本来得られるはずの収益を逃している可能性があります。
特に注意したいのは、空室が出たときです。
これまで満室だった物件でも、退去後に同じ条件で募集しても決まらないことがあります。築年数が経過しているにもかかわらず、昔の感覚のまま家賃を設定してしまうと、募集期間が長期化しやすくなります。
相続後は、周辺の類似物件と比較しながら、現在の家賃が適正かどうかを見直すことが大切です。
トラブル4:修繕履歴が分からない
建物管理で非常に重要なのが、修繕履歴です。
いつ外壁塗装をしたのか。
屋上防水はいつ実施したのか。
給水管や排水管の不具合はなかったか。
エアコンや給湯器は何年製か。
過去に雨漏りや漏水は発生していないか。
こうした情報が分からないまま物件を引き継ぐと、突然大きな修繕費が発生する可能性があります。
たとえば、相続後すぐに屋上防水の劣化が見つかり、まとまった修繕費が必要になることがあります。また、古い給排水管から漏水が発生し、入居者対応や復旧工事に追われることもあります。
修繕は、問題が起きてから対応すると費用が大きくなりやすいものです。
相続後は、過去の工事資料、見積書、請求書、管理会社からの報告書などを確認し、建物の状態を把握しておきましょう。

トラブル5:空室対策が後回しになる
賃貸物件の収益に大きく影響するのが空室です。
相続した物件に空室がある場合、早めに原因を確認する必要があります。
空室の原因は、家賃だけとは限りません。室内の設備が古い、写真の印象が悪い、募集条件が厳しい、仲介会社への情報共有が弱い、周辺競合に負けているなど、さまざまな要因が考えられます。
特に、相続人が遠方に住んでいる場合、空室状況を細かく確認できず、募集活動が管理会社任せになってしまうことがあります。
もちろん、管理会社に任せること自体は問題ありません。
ただし、どのような条件で募集しているのか、内見は入っているのか、問い合わせはあるのか、決まらない理由は何かを定期的に確認することが大切です。
空室が長期化すると、家賃収入が減るだけでなく、建物全体の印象にも影響します。空室が目立つ物件は、入居希望者から見ても不安に映ることがあります。
トラブル6:相続人同士で意思決定が進まない
賃貸物件を複数の相続人で引き継ぐ場合、意思決定が難しくなることがあります。
たとえば、兄弟で物件を共有するケースです。
一人は「修繕して貸し続けたい」と考え、もう一人は「売却したい」と考えている。
一人は「家賃を下げて早く決めたい」と考え、もう一人は「家賃は下げたくない」と考えている。
このように意見が分かれると、管理方針が定まらず、対応が遅れてしまいます。
賃貸経営では、判断の遅れが損失につながることがあります。空室募集の条件変更、修繕工事の実施、入居者トラブルへの対応など、早めに決めなければならない場面が多くあります。
共有名義で物件を持つ場合は、誰が窓口になるのか、どの範囲まで判断できるのか、費用負担をどうするのかを事前に決めておくことが大切です。
トラブル7:管理会社との関係性が引き継がれていない
親の代から付き合いのある管理会社がある場合でも、相続人との関係性が十分にできていないことがあります。
管理会社は親とは長年やり取りしていたものの、相続人とはほとんど面識がない。
相続人は管理会社に何を任せているのか分からない。
管理委託契約の内容を確認していない。
このような状態では、管理の質を判断することが難しくなります。
相続後は、管理会社と一度しっかり打ち合わせを行い、現在の管理内容を確認しましょう。
確認したい項目としては、以下のようなものがあります。
・管理委託契約の内容
・管理手数料
・入居者対応の範囲
・家賃滞納時の対応
・空室募集の方法
・修繕提案の流れ
・毎月の報告内容
・緊急時の対応体制
これらを確認することで、今後も同じ管理会社に任せるべきか、管理体制を見直すべきか判断しやすくなります。

相続税対策だけで物件を見ないことが大切
賃貸物件は、相続税対策として話題になることがあります。
たとえば、小規模宅地等の特例では、一定の要件を満たす貸付事業用宅地等について、相続税評価額の計算上、一定割合の減額が認められる場合があります。国税庁も、小規模宅地等については区分ごとに一定割合を減額する制度を案内しています。
ただし、税金面のメリットだけを見て賃貸物件を持ち続けると、管理面で苦労することがあります。
築年数が古い物件、修繕費がかかる物件、空室が多い物件、立地の競争力が落ちている物件などは、相続後の運営方針を慎重に考える必要があります。
大切なのは、「相続税がどうなるか」だけでなく、「相続後に安定して運営できる物件なのか」を見ることです。
税理士には税金の相談をし、管理会社には賃貸経営や建物管理の相談をする。
このように、専門分野ごとに相談先を分けて考えることが大切です。
相続後にまず確認したいチェックポイント
賃貸物件を相続したら、まず次のような点を確認してみましょう。
・現在の入居状況
・各部屋の家賃と契約内容
・滞納の有無
・保証会社加入の有無
・空室の募集状況
・過去の修繕履歴
・今後必要になりそうな修繕
・毎月、年間の収支
・管理会社との契約内容
・相続人同士の意思決定ルール
これらを整理するだけでも、物件の現状がかなり見えやすくなります。
反対に、これらが分からない状態で賃貸経営を続けると、問題が起きたときに後手に回りやすくなります。
まとめ:相続後の賃貸経営は「管理状況の見える化」から始める
賃貸物件の相続では、相続税や登記などの手続きが重要です。
しかし、それと同じくらい大切なのが、相続後の管理体制です。
物件の収支、入居者情報、修繕履歴、空室状況、管理会社との契約内容を確認しないまま引き継いでしまうと、後から思わぬトラブルが発生することがあります。
相続税は一時的な問題ですが、賃貸物件の管理は相続後も続いていきます。
だからこそ、賃貸物件を相続したときは、「税金をどうするか」だけでなく、「この物件を今後どう運営していくか」という視点を持つことが大切です。
相続した物件の状況がよく分からない場合や、今の管理体制に不安がある場合は、早めに管理会社へ相談してみることをおすすめします。
現状を整理するだけでも、今後の方針が見えやすくなります。物件を守り、安定した賃貸経営を続けるためにも、相続後はまず管理状況の見える化から始めてみてはいかがでしょうか。
