火災保険は退去時の原状回復に使える?不動産オーナー必見の新基礎知識|アパート経営・マンション経営の知識
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- リフォーム・原状回復
目次
はじめに
不動産オーナーの皆様にとって、賃貸経営における悩みの種の一つが「退去時の原状回復」ではないでしょうか。入居者が入れ替わるたびに発生する修繕費用は、決して小さな負担ではありません。「この傷、火災保険でなんとかならないだろうか?」と考えたことのあるオーナー様もいらっしゃるかもしれません。
結論から申し上げますと、原則として、経年劣化や通常損耗による一般的な原状回復に、オーナー様が加入している火災保険を利用することはできません。
しかし、ここで話を終えてしまっては、このコラムの意味がありません。実は、「特定の条件下」においては、火災保険が退去時の修繕費用を力強くカバーしてくれるケースが存在するのです。さらに、オーナー様の火災保険だけでなく、**入居者が加入する火災保険(借家人賠償責任保険)**を正しく理解し、活用することが、安定した賃貸経営の鍵を握ります。
本コラムでは、「なぜ通常の原状回復に火災保険が使えないのか」という基本から、火災保険が適用される例外的なケース、オーナーと入居者双方の保険の役割分担、そして実際の申請時の注意点まで、不動産オーナー様が知っておくべき火災保険の新基礎知識を、5つの章に分けて徹底的に解説します。
このコラムを読み終える頃には、火災保険を単なる「火事のときのお守り」ではなく、賃貸経営における強力なリスク管理ツールとして捉え直すことができるはずです。
第1章:なぜ、通常の原状回復に火災保険は使えないのか?
まず、大原則として「なぜ、ごく一般的な原状回復に火災保険が使えないのか」を理解することが重要です。理由は大きく分けて2つあります。
1. 「原状回復」と「火災保険の補償対象」の根本的な違い
賃貸借契約における「原状回復」とは、「借りた当時の状態に完全に戻すこと」ではありません。国土交通省のガイドラインでは、「経年劣化」や「通常損耗(通常の使用による損耗)」については、家賃に含まれるものとされ、その修繕費用はオーナー様が負担すべきとされています。
- 経年劣化・通常損耗の例
- 壁紙や畳の日焼けによる変色
- 家具の設置による床やカーペットのへこみ
- 画鋲やピンの跡(ポスターなどを貼るための常識の範囲内)
- テレビや冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)
一方、火災保険が補償するのは、その名の通り「火災」をはじめとする**「不測かつ突発的な事故」**によって生じた損害です。ゆっくりと時間をかけて進行する経年劣化や、普通に住んでいれば発生する通常損耗は「事故」ではないため、火災保険の補償対象外となるのです。
2. 損害の原因が「借主の故意・過失」にある場合
では、経年劣化や通常損耗を超えた、入居者の使い方に問題があって生じた損害(善管注意義務違反)はどうでしょうか。
- 借主の故意・過失による損害の例
- タバコの不始末による焦げ跡
- 掃除を怠ったことによる頑固なカビや油汚れ
- 結露を放置したことによる壁や床の腐食
- ペットがつけた柱の傷や臭い
- 物を落としてつけてしまったフローリングの深い傷
これらの損害の修繕費用は、原則として入居者に請求することになります。オーナー様がご自身の火災保険を使って修理する、という考え方にはなりません。この場合、後述する**「入居者の借家人賠償責任保険」**が活躍することになります。
このように、「経年劣化・通常損耗」と「不測かつ突発的な事故」の定義の違い、そして「損害の責任の所在」が、通常の原状回復にオーナー様の火災保険が使えない大きな理由です。
第2章:退去時に火災保険が使える「例外的なケース」とは?
ここからが本コラムの核心です。通常の原状回復には使えませんが、退去時の修繕において、オーナー様の火災保険が適用される可能性のある「例外的なケース」が存在します。それは、損害の原因が「不測かつ突発的な事故」に該当する場合です。
具体的にどのようなケースが考えられるのか、詳しく見ていきましょう。
ケース1:火災・落雷・破裂・爆発による損害
これは火災保険の最も基本的な補償です。退去時に発見された損害であっても、その原因が保険期間中の火災などによるものであれば補償の対象となります。
- 具体例
- 入居者がボヤを起こし、壁紙の一部が煤で汚れた。
- 物件に落雷があり、備え付けのエアコンや給湯器が故障した。
- ガス漏れによる小規模な爆発で、キッチンの一部が破損した。
退去時の立ち会いで、このような損害を発見した場合は、速やかに保険会社に連絡しましょう。
ケース2:給排水設備に起因する水濡れによる損害
水濡れ損害は非常に多いトラブルの一つです。この場合、原因の切り分けが重要になります。
- オーナーの火災保険が使える例
- 建物の給排水管が老朽化で破損し、階下の部屋にまで水漏れが発生。床や壁の張り替えが必要になった。
- 備え付けの給湯器から水が漏れ、キッチンの床が腐食した。
このように、建物や設備自体に起因する水漏れは、オーナー様の火災保険(の水濡れ補償)でカバーできます。
- 対象外となる例(入居者の保険で対応)
- 入居者が洗濯機のホースを improperly 設置したため外れて水浸しになった。
- 入居者がお風呂の水を出しっぱなしにして溢れさせた。
上記は入居者の過失となるため、後述する「借家人賠償責任保険」の対象となります。
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ケース3:風災・雹(ひょう)災・雪災などの自然災害による損害
台風やゲリラ豪雨、大雪などの自然災害によって建物が損害を受けた場合も、オーナー様の火災保険の対象です。
- 具体例
- 台風の強風で窓ガラスが割れた、またはベランダの隔て板が破損した。
- 大雪の重みでカーポートの屋根が破損した。
- 雹が降ってきて、外壁や屋根に損傷が生じた。
これらの損害は、入居者の退去を待たず、発生後すぐに申請すべきものですが、もし退去時の点検で初めて発覚した場合でも、保険期間中の災害によるものと証明できれば、保険金請求が可能です。
ケース4:「不測かつ突発的な事故(破損・汚損)」による損害
この補償(特約)が、最も判断が難しく、かつオーナー様にとって活用の幅が広がる可能性のある項目です。これは、上記までのケースに当てはまらない、予測不能な突発的な事故による破損や汚損をカバーするものです。
【重要】この補償は、火災保険の基本補償に含まれておらず、「破損・汚損損害補償特約」などの名称で別途付帯する必要がある場合がほとんどです。ご自身の保険契約を必ずご確認ください。
- オーナーの火災保険が使える可能性のある例
- 入居者が「模様替えの際にうっかり重い家具を倒してしまい、壁に大きな穴を開けてしまった」と申告してきた。
- 入居者の子どもが室内で遊んでいて、誤って物を投げ、備え付けのドアガラスを割ってしまった。
ポイントは、「うっかり」「誤って」といった過失ではあるものの、故意ではなく、突発的に起きた事故であるという点です。
- 対象外となる可能性が高い例
- 画鋲の穴、壁紙の擦り傷や日焼け(通常損耗)
- タバコのヤニによる壁紙の変色(多くの場合、汚損には含まれない)
- ペットによるひっかき傷や臭い(多くの保険で免責事項)
- 入居者が自分で修理しようとして、かえって破損を広げてしまった場合
- 単なる経年による設備の故障
この「破損・汚損」補償は、保険会社によって認定基準が異なります。何が「不測かつ突発的」と認められるかはケースバイケースであり、必ずしも保険金が支払われるとは限りません。しかし、「これはどうだろう?」と迷うような損害があった場合は、諦めずに保険会社に相談してみる価値は十分にあります。
第3章:オーナーと入居者、どちらの保険を使うのか?【重要】
退去時のトラブルをスムーズに解決するためには、オーナー様ご自身の火災保険だけでなく、入居者が加入する保険の役割を正確に理解しておくことが不可欠です。
1. オーナー様の火災保険の役割
オーナー様が加入する火災保険は、あくまで**「建物そのもの」と「建物に備え付けられた設備(建物付属設備)」**を守るためのものです。
- 対象となるもの
- 建物躯体(柱、壁、屋根など)
- 備え付けのエアコン、給湯器、システムキッチン、ユニットバス、トイレ
- 門、塀、垣、物置、カーポートなど
2. 入居者の火災保険の役割
多くのオーナー様は、賃貸借契約時に入居者に火災保険への加入を義務付けているかと思います。この入居者向けの保険は、大きく分けて2つの重要な役割を担っています。
- ① 家財保険 テレビや冷蔵庫、タンスといった入居者自身の所有物(家財)を、火災や水濡れなどの損害から守るためのものです。これはオーナー様には直接関係しません。
- ② 借家人賠償責任保険(特約) こちらが非常に重要です。 借家人賠償責任保険とは、**「入居者の過失によって借りている部屋に損害を与えてしまい、オーナー様に対して法律上の損害賠償責任を負った場合に、その賠償金を補償する保険」**です。
- 借家人賠償責任保険が使われる典型的な例
- タバコの不始末で床を焦がしてしまった。
- お風呂の水を止め忘れ、床を水浸しにして張り替えが必要になった。
- 料理中に天ぷら油に引火させ、キッチンを焼損させてしまった。
思い出してください。第1章で解説した「借主の故意・過失による損害」は、原則として入居者が修繕費用を負担すべきものでした。しかし、入居者に支払い能力がない場合、オーナー様は費用を回収できず、泣き寝入りになってしまうリスクがあります。
このリスクをヘッジするのが、借家人賠償責任保険なのです。入居者の過失による損害については、まずこの保険を使ってもらうのが筋となります。これにより、オーナー様は安定して修繕費用を確保でき、入居者も多額の賠償金を自己負担するリスクを回避できます。入居時に借家人賠償責任保険へ確実に加入してもらい、退去時まで継続されているかを確認することは、極めて重要なリスク管理です。
- 借家人賠償責任保険が使われる典型的な例
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第4章:実践編!保険を申請する際の注意点と流れ
「これは保険が使えるかもしれない」という損害を発見した場合、どのように行動すればよいのでしょうか。スムーズに保険金を受け取るための手順と注意点を解説します。
ステップ1:現状の記録(証拠保全)
何よりもまず、損害箇所の写真を撮影してください。
- 撮影のポイント
- 全体像: どこで発生したか分かるように、少し引いた位置から撮影。
- 詳細: 損害の状況がよく分かるように、接写で撮影。
- 複数の角度から: 様々な角度から複数枚撮影しておく。
- 日付入りで: 可能であれば、カメラの日付設定機能を使うか、日付の入った新聞などと一緒に写す。
併せて、**「いつ、誰が(または何が原因で)、どのようにして損害が発生したか」**を、入居者からのヒアリングなどを通じて時系列でメモしておきましょう。
ステップ2:保険代理店または保険会社へ連絡
次に、ご自身が契約している保険代理店または保険会社の事故受付窓口に連絡します。自己判断で修理業者を手配する前に、必ず連絡を入れてください。 事前の連絡なしに修理を進めると、保険金が支払われない可能性があります。
連絡の際は、ステップ1でまとめた情報を基に、落ち着いて状況を説明しましょう。
ステップ3:必要書類の準備と提出
保険会社から、保険金請求に必要な書類の案内があります。一般的には以下の書類が必要です。
- 保険金請求書(保険会社から送られてくる)
- 修理業者の見積書
- 損害箇所の写真
- (場合によっては)罹災証明書(火災や自然災害の場合)
見積書は、保険会社から業者の指定がない限り、オーナー様ご自身で付き合いのある工務店などに依頼して作成してもらうのが一般的です。
ステップ4:損害鑑定人の調査(実施される場合)
損害額が大きい場合や、事故状況の確認が必要な場合には、保険会社から委託された「損害鑑定人」が現地調査に訪れることがあります。鑑定人は、損害状況を確認し、修理費用が妥当であるかを判断して、保険会社に報告書を提出します。正直に状況を説明し、調査に協力しましょう。
ステップ5:保険金の支払い
提出書類や鑑定人の調査結果を基に、保険会社が審査を行い、支払われる保険金の額が決定します。決定額に合意すれば、後日、指定の口座に保険金が振り込まれます。
申請時の重要注意点
- 免責金額(自己負担額)の確認: 火災保険には多くの場合、「免責金額」が設定されています。これは「損害額のうち、この金額までは自己負担してください」というもので、例えば免責金額が3万円の場合、修理費用が10万円かかっても支払われる保険金は7万円となります。修理費用が免責金額を下回る場合は、保険を使っても意味がないため、申請前にご自身の契約内容を確認しましょう。
- 保険料の値上がりリスク: 自動車保険と同様に、火災保険も利用すると翌年度以降の保険料が上がることがあります(事故有係数など)。少額の損害の場合、保険を使わずに自己資金で修理した方が、長期的に見て得になるケースもあります。
- 虚偽の申請は絶対にしない: 「経年劣化による壁紙の張り替え費用を、突発的な事故があったことにして請求する」といった虚偽の申請は、告知義務違反や詐欺行為にあたります。保険金が支払われないばかりか、契約解除や詐欺罪に問われる可能性もある、非常にリスクの高い行為です。絶対にやめましょう。
第5章:安定経営のために!不動産オーナーが今すぐ確認すべき火災保険のチェックポイント
今回のコラムを機に、ご自身が加入している火災保険の契約内容をぜひ一度見直してみてください。以下のポイントが、ご自身の物件のリスク実態と合っているかを確認しましょう。
基本の補償範囲は十分か?
火災、落雷、破裂・爆発だけでなく、**「風災・雹災・雪災」「水濡れ」**といった基本的な補償がきちんと付帯されていますか?
お持ちの物件が川の近くや低地にある場合、**「水災」**補償は必須です。ハザードマップなどを確認し、必要性を検討しましょう。
「破損・汚損」特約は付帯されているか?
本コラムでも解説した「不測かつ突発的な事故」に備えるための重要な特約です。これが付いているかいないかで、対応できる事故の範囲が大きく変わります。
保険金額は適正か?
保険金額が、万が一全焼した場合に**「同等の建物を建て直せる金額(再調達価額)」**になっていますか?購入時の価格(時価)で設定していると、いざという時に再建費用が不足する可能性があります。
オーナーを守るための特約は付帯されているか?
施設賠償責任特約: 建物の管理不備(例:外壁のタイルが剥がれ落ちて通行人にケガをさせた、共用部分の床が濡れていて入居者が転倒した等)によって、第三者に損害を与えてしまった場合の賠償金をカバーします。
家賃収入補償特約: 火災などで建物が大きな損害を受け、修繕期間中に家賃収入が得られなくなった場合に、その損失分を補償してくれます。賃貸経営の根幹を守る重要な特約です。
保険は一度加入したら終わりではありません。社会情勢や物件の状況に合わせて、定期的に専門家である保険代理店に相談し、見直しを行うことが、長期的な安定経営に繋がります。
まとめ
最後に、本コラムの要点をまとめます。
- 原則: 経年劣化や通常損耗による一般的な原状回復に、オーナーの火災保険は使えない。
- 例外: 「火災」「水濡れ」「自然災害」「不測かつ突発的な事故(破損・汚損)」が原因の損害には、使える可能性がある。
- 役割分担: 建物や設備の損害はオーナーの保険、入居者の過失による損害は入居者の「借家人賠償責任保険」で対応するのが基本。
- 実践: 損害を発見したらまず「記録」と「保険会社への連絡」。自己判断で修理を進めない。
- 備え: ご自身の保険内容を定期的に見直し、物件のリスクに合った適切な補償と特約を備えることが、何よりのリスク管理となる。
火災保険は、使い方と役割を正しく理解することで、賃貸経営における予期せぬ出費からオーナー様の大切な資産と事業を守ってくれる、頼もしいパートナーとなります。このコラムが、皆様の今後の安定した不動産経営の一助となれば幸いです。
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