「親が所有しているアパートには、まだローンが残っている」
「家賃収入がある物件だから、相続してもそれほど心配はないだろう」
このように考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、金利が上昇する局面では、これまで問題なく運営できていた賃貸物件でも、相続後にローン返済の負担が増え、想定していたほど手元にお金が残らなくなる可能性があります。
日本銀行は2026年7月31日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を「1.0%程度」で推移させる方針を決定しています。また、次回の金融政策決定会合は2026年9月17日・18日に予定されており、賃貸経営においても金利動向を無視しにくい環境になっています。
特に注意したいのが、ローンの残っているアパートやマンションを相続するケースです。
不動産の価格や家賃収入だけを見るのではなく、借入残高・金利・返済額・空室・修繕費まで含めて、「相続した後も経営を続けられる物件なのか」を確認することが重要です。
今回は、ローンが残る賃貸物件を相続する前に確認しておきたいポイントを、不動産管理の視点から分かりやすく解説します。
なぜ今、「ローンが残る賃貸物件の相続」に注意が必要なのか
金利が上がると賃貸経営の手残りが減る可能性がある
賃貸経営では、毎月入ってくる家賃がそのままオーナーの利益になるわけではありません。
家賃収入からは、
・ローン返済
・管理費
・修繕費
・固定資産税などの税金
・共用部分の電気代や清掃費
・保険料
・空室による損失
など、さまざまな費用が発生します。
この中でも金利上昇の影響を受けやすいのが、ローン返済です。
特に変動金利型など、借入条件によって適用金利が見直される融資では、金利上昇によって利息負担が増える可能性があります。
例えば、仮にローン残高が5,000万円ある状態で、適用される金利が1%上昇したとします。
単純に残高に対する金利差だけを考えると、
5,000万円 × 1% = 年間50万円
の差になります。
実際の返済額は返済方法、残存期間、金利見直しのルールなどによって異なるため、この金額がそのまま年間負担増になるわけではありません。
それでも、ローン残高が大きい物件ほど、わずかな金利差が収支に与える影響も大きくなることは理解しておく必要があります。
「家賃が入っているから大丈夫」とは限らない
確認すべきなのは家賃収入ではなく「最終的な手残り」
相続する賃貸物件を確認するとき、
「毎月50万円の家賃が入っている」
という情報だけで判断してしまうのは注意が必要です。
重要なのは、50万円の家賃収入からさまざまな支出を差し引いたあと、実際にいくら残っているのかです。
例えば、家賃収入が月50万円だったとしても、
ローン返済が30万円、管理や共用部の費用が数万円、さらに固定資産税や修繕費が発生すれば、実際の手残りは大きく減ります。
さらに1室退去して家賃収入が減ったり、給湯器やエアコンなどの設備交換が重なったりすれば、一時的に収支がマイナスになることもあります。
ここに金利上昇による返済負担増が加われば、これまで黒字だった物件が、以前ほど利益を生まなくなる可能性もあります。
そのため相続前には、
「現在いくら家賃が入っているか」ではなく、「すべての費用を差し引いたあと、年間でいくら残っているか」
を見ることが大切です。

借入金があると相続税はどうなる?
一定の借入金は相続財産から差し引ける
ローンが残っている不動産の相続では、税金についても知っておきたいポイントがあります。
相続税を計算する際、一定の条件を満たす被相続人の借入金などの債務は、遺産総額から差し引くことができます。
国税庁も、被相続人が死亡した時点で現に存在し、確実と認められる借入金や未払金などについて、相続税の計算上、遺産総額から控除できるとしています。
この仕組みを「債務控除」といいます。
そのため、金融機関から借入れを行って賃貸物件を所有している場合、借入残高が相続税計算に影響することがあります。
ただし、ここで注意したいのが、
「借金が多ければ相続税が下がる=得をする」
とは限らないことです。
相続税の計算上は債務として差し引けたとしても、相続後の賃貸経営では、そのローンを返済していかなければならないケースがあります。
税金だけを見るのではなく、相続後のキャッシュフローまで含めて判断することが重要です。
なお、実際にどの債務が控除対象になるかは個別事情によって異なるため、具体的な相続税計算については税理士などの専門家への確認をおすすめします。
引き継ぐ前に確認したい「5つの数字」
賃貸物件の相続が予定されている場合、できれば相続が発生する前から物件の経営状態を把握しておきたいところです。
特に次の5つは確認しておきましょう。
1.現在のローン残高
まず確認したいのが、金融機関からいくら借入れが残っているのかです。
物件を購入した時期や購入金額を知っていても、現在の正確な借入残高を家族が把握していないケースは珍しくありません。
複数の金融機関から借入れをしている場合や、複数物件を共同担保にしている場合などは、より慎重な確認が必要です。
2.現在の適用金利と金利タイプ
「ローンが残っている」ことだけではなく、
固定金利なのか、変動金利なのか
も重要です。
さらに、
・現在の適用金利
・次回の金利見直し時期
・残りの返済期間
・毎月の返済額
なども確認します。
同じ5,000万円の借入残高でも、金利や残存期間によって返済負担は大きく変わります。
3.年間家賃収入
次に、実際にどの程度の家賃収入があるのかを確認します。
満室になった場合の「想定年間賃料」ではなく、できれば過去1年間程度の実際に入金された家賃を見ることが重要です。
長期間空室になっている部屋や、滞納が発生している部屋がないかも確認しましょう。
4.年間の維持管理費
管理会社への管理料だけではありません。
固定資産税、火災保険、共用部電気代、清掃費、消防設備点検、エレベーター保守、植栽管理、修繕費など、物件を保有することで発生する費用を確認します。
特に築年数が進んだ物件では、今後の修繕費も考慮する必要があります。
5.年間の最終的な手残り
最後に、
年間家賃収入-ローン返済-管理費-税金-修繕費-その他経費
という形で、実際にどの程度の資金が残っているのかを確認します。
相続するかどうかを考えるうえでは、この数字が非常に重要です。
金利がさらに上がった場合の「ストレステスト」をしておく
現在の金利だけで収支を判断しない
これから相続する物件であれば、現在の金利だけでなく、金利が上昇した場合の収支も確認しておくと安心です。
これを「ストレステスト」と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、
「金利が現在より0.5%上昇したらどうなるか」
「1%上昇したらどうなるか」
という条件で、年間の返済負担や手残りがどう変わるのかを確認します。
その結果、
現在:年間手残り150万円
金利+0.5%:年間手残り100万円
金利+1%:年間手残り50万円
といったように、金利上昇に対する物件の耐久力を見ることができます。
もちろん実際の返済額の変化は融資条件によりますが、こうしたシミュレーションをしておけば、「少し金利が上がっただけで資金繰りが苦しくなる物件」なのか、「ある程度余裕のある物件」なのかを判断しやすくなります。

金利上昇だけでなく「修繕」と「空室」も同時に考える
築年数が進んだ相続物件ほど注意したい
相続する物件では、ローンだけを確認すればよいわけではありません。
特に親が長期間所有してきたアパートやマンションでは、築年数が進んでいるケースも多くあります。
その場合、
・外壁や屋上防水
・給排水設備
・エアコン
・給湯器
・エレベーター
・共用部設備
など、まとまった修繕費が必要になる可能性があります。
例えば、毎年の収支では黒字だったとしても、相続直後に大規模修繕が必要になれば、まとまった現金が必要です。
つまり、
ローン返済ができる=安心して相続できる
とは限りません。
「金利が上がった場合」「空室が増えた場合」「修繕が発生した場合」という複数のリスクを同時に考えておく必要があります。
相続する前に「売る・持つ」も検討する
相続対策というと、「どうやって子どもに不動産を残すか」に意識が向きがちです。
しかし、すべての賃貸物件をそのまま次世代へ残すことが、必ずしも最適とは限りません。
借入残高が大きく、今後大規模修繕が必要で、さらに収益性が低下している物件であれば、将来の売却を含めて検討することも選択肢になります。
反対に、
・立地が良い
・入居率が安定している
・賃料と周辺相場に大きなズレがない
・借入残高が減っている
・修繕計画ができている
といった物件であれば、引き続き保有するメリットがあるかもしれません。
大切なのは、
「親が持っていたからそのまま相続する」のではなく、一つの賃貸経営として改めて評価すること
です。
相続が発生してから調べるのでは遅いこともある
相続税の申告・納付は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
10か月と聞くと十分な時間があるように感じるかもしれません。
しかし実際には、
相続財産の調査、借入状況の確認、不動産の評価、相続人間での協議、税務上の確認、金融機関への確認などを進めていく必要があります。
さらに賃貸物件の場合には、相続手続きとは別に、毎月の家賃入金や入居者対応、修繕、更新、退去なども続きます。
そのため、できれば所有者が元気なうちに、
「どの金融機関から、いくら借りているのか」
「年間どのくらい利益が出ているのか」
「今後どのくらい修繕が必要なのか」
といった情報を家族間で整理しておくことが望ましいでしょう。

まとめ|相続では「不動産価格」より「相続後の経営」を確認する
金利が上昇する環境では、ローンの残る賃貸物件を相続するときの考え方も変わってきます。
物件の資産価値や家賃収入だけを見るのではなく、
借入残高・金利・年間返済額・空室率・修繕費・最終的な手残り
まで確認することが重要です。
特に注意したいのは、
「現在黒字だから、相続後も黒字とは限らない」
という点です。
金利上昇だけでなく、建物の老朽化、設備交換、空室、賃料水準などによって、将来の収支は変わります。
相続税については税理士、借入については金融機関など専門家への確認が必要ですが、賃貸物件そのものの収益状況や入居状況、募集賃料、今後の修繕計画については、管理会社が把握している情報も少なくありません。
「この物件を子どもに残して問題ないのだろうか」「相続後も安定した賃貸経営ができるだろうか」と気になった場合は、相続が発生してからではなく、早い段階で現在の賃貸経営の状況を一度整理してみることをおすすめします。
