親が所有していたアパートを相続することになった場合、「何から手を付ければよいのか分からない」と感じる方は少なくありません。
相続というと、まず相続税や遺産分割のことを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、相続する不動産が賃貸アパートの場合は、税金や名義変更だけでなく、入居者対応、家賃の入金管理、修繕、管理会社との契約、空室対策など、実務上確認すべきことが多くあります。
特に、親が長年オーナーとして自主管理をしていた場合や、管理会社に任せていたものの相続人が内容を把握していない場合は、相続後にトラブルが表面化することもあります。
この記事では、親のアパートを相続した方に向けて、最初に確認すべきポイントを管理会社の視点から分かりやすく解説します。
親のアパートを相続したら、まず全体像を把握する
親のアパートを相続したときに最初に行うべきことは、「そのアパートが現在どのような状態なのか」を把握することです。
不動産の相続では、土地や建物の評価額、相続税の有無に目が向きがちですが、賃貸アパートの場合は、すでに入居者が住んでいるケースが多くあります。そのため、相続人が所有者になった瞬間から、貸主としての責任も引き継ぐことになります。
たとえば、入居者からの修繕依頼、家賃の入金確認、契約更新、退去時の精算、共用部の管理などは、相続手続き中であっても止まるものではありません。
「相続が落ち着いてから考えよう」と後回しにしてしまうと、家賃の入金先が分からない、入居者からの連絡に対応できない、修繕が放置される、管理会社との契約内容が不明のままになる、といった問題が起こる可能性があります。
そのため、まずは以下のような情報を整理することが大切です。
最初に確認したい基本情報
まず確認したいのは、物件そのものの基本情報です。
所在地、建物名、築年数、構造、部屋数、現在の入居状況、空室の有無、駐車場や駐輪場の契約状況などを整理しましょう。
また、登記簿謄本、固定資産税納税通知書、建築確認済証、検査済証、賃貸借契約書、管理委託契約書、修繕履歴、火災保険の証券なども重要な資料です。
これらの書類が手元に揃っていない場合は、管理会社、税理士、司法書士、金融機関、保険会社などに確認しながら集めていく必要があります。
特に、固定資産税納税通知書は、土地・建物の評価額や所在地を確認するうえで役立ちます。相続税の申告が必要になる可能性がある場合にも、早めに確認しておきたい資料の一つです。
入居者との契約内容を確認する
賃貸アパートを相続した場合、最も重要な確認事項の一つが、入居者との賃貸借契約です。
相続によって所有者が変わったとしても、入居者との契約が自動的になくなるわけではありません。原則として、相続人は亡くなった親の貸主としての地位を引き継ぐことになります。
そのため、各部屋の賃貸借契約書を確認し、現在どのような条件で貸しているのかを把握する必要があります。
確認すべき契約内容
賃貸借契約書では、以下のような項目を確認しましょう。
まず、契約者名、入居者名、連帯保証人、緊急連絡先を確認します。長期間入居している方の場合、契約当時の連絡先が古くなっていることもあります。
次に、賃料、共益費、管理費、駐車場代、更新料、敷金、礼金などの金銭条件を確認します。周辺相場より極端に安い賃料で貸している場合や、契約内容が部屋ごとにバラバラになっている場合は、今後の収支にも影響します。
また、契約期間、更新時期、普通借家契約か定期借家契約かも確認が必要です。契約の種類によって、更新や解約に関する扱いが異なります。
さらに、ペット飼育、楽器使用、事務所利用、民泊利用、駐車場利用など、特約事項も確認しておきましょう。親が口頭で許可していた内容がある場合、書面に残っていないことで後々トラブルになることもあります。

家賃の入金状況を確認する
次に確認すべきなのが、家賃の入金状況です。
アパート経営では、毎月の家賃収入が収益の中心になります。しかし、相続発生後は、親名義の銀行口座が凍結されることがあり、家賃の入金や管理が混乱する場合があります。
そのため、相続後はできるだけ早く、家賃がどの口座に入金されているのか、滞納はないか、保証会社を利用しているかを確認しましょう。
滞納の有無は早めに確認する
家賃滞納がある場合、相続人がその事実を知らないまま時間が経過してしまうことがあります。
管理会社に委託している場合は、滞納一覧や督促履歴を確認しましょう。自主管理の場合は、通帳の入金履歴や入居者ごとの支払い状況を確認する必要があります。
滞納が長期化している場合、回収が難しくなるだけでなく、法的手続きが必要になる可能性もあります。相続発生直後は慌ただしい時期ですが、家賃の入金確認は早めに行うことをおすすめします。
保証会社の契約も確認する
近年は、賃貸借契約時に家賃保証会社を利用しているケースが多くあります。
保証会社に加入している場合、滞納が発生した際に保証会社から代位弁済を受けられる可能性があります。ただし、保証内容や請求期限は保証会社によって異なります。
そのため、どの入居者がどの保証会社に加入しているのか、保証委託契約書があるか、保証範囲はどこまでかを確認しておくことが重要です。
保証会社の契約内容を把握していないと、滞納が発生した際に請求漏れや対応遅れが起きる可能性があります。
管理会社との契約内容を確認する
親がアパートを管理会社に任せていた場合は、管理委託契約の内容を確認しましょう。
管理会社に任せているから安心と思っていても、実際にどこまで対応してもらえるのかは契約内容によって異なります。
たとえば、家賃集金、滞納督促、入居者対応、更新業務、退去立会い、原状回復工事、空室募集、建物巡回、清掃、修繕手配など、管理会社が対応する範囲は会社によって違います。
管理委託契約書で確認すべきこと
管理委託契約書では、まず管理手数料を確認しましょう。家賃収入に対して何%なのか、固定額なのか、空室時にも費用がかかるのかを確認します。
次に、管理業務の範囲を確認します。入居者対応のみなのか、募集業務まで含まれているのか、建物巡回や清掃も含まれているのかによって、相続人が対応すべき範囲が変わります。
また、解約する場合の予告期間や違約金の有無も確認しておく必要があります。相続を機に管理会社を変更したい場合でも、契約上すぐに切り替えられない場合があります。
管理会社との連絡窓口も重要です。相続人が複数いる場合、誰が代表して管理会社とやり取りをするのかを決めておかないと、確認や判断に時間がかかってしまいます。
建物の修繕履歴と現状を確認する
アパートを相続した際には、建物の状態を必ず確認しましょう。
築年数が古いアパートでは、外壁、屋根、防水、給排水管、共用部、電気設備、消防設備など、さまざまな部分で修繕が必要になることがあります。
親が元気なうちは細かく対応していたとしても、晩年は修繕が後回しになっていたというケースもあります。また、見た目には問題がなさそうでも、長年メンテナンスをしていない部分が劣化していることもあります。
大規模修繕の予定を確認する
特に確認したいのが、大規模修繕の予定です。
外壁塗装、屋上防水、鉄部塗装、給排水設備の更新などは、まとまった費用がかかります。相続した直後に大きな修繕費が発生すると、資金計画に影響する可能性があります。
管理会社が入っている場合は、過去の修繕履歴や今後必要になりそうな修繕項目を確認しましょう。自主管理だった場合は、現地確認を行い、必要に応じて専門業者に点検を依頼することも検討すべきです。
建物の状態を把握しないまま賃貸経営を続けると、入居者満足度が下がり、退去や空室の原因になることもあります。

空室状況と募集条件を確認する
相続したアパートに空室がある場合は、なぜ空いているのかを確認することが重要です。
単にタイミングの問題で空いているのか、賃料が相場より高いのか、室内設備が古いのか、写真や募集条件が弱いのか、管理会社の募集活動が不十分なのかによって、対策は変わります。
空室が長引く原因を整理する
空室が長引いている場合、まず募集条件を確認しましょう。
賃料、共益費、敷金、礼金、広告料、フリーレント、更新料、保証会社の利用条件などが周辺物件と比べて適正かどうかを確認します。
次に、室内の状態を確認します。築年数が古くても、清潔感があり、設備が整っていれば十分に競争力を持てる場合があります。一方で、クロスの汚れ、古い水回り、照明の暗さ、写真映えしない内装などが原因で反響が少なくなることもあります。
また、募集写真やポータルサイトへの掲載内容も重要です。現在の賃貸市場では、インターネット上の見え方が反響数に大きく影響します。写真が暗い、枚数が少ない、設備情報が不足している、間取り図が見にくいといった状態では、物件の魅力が伝わりにくくなります。
相続後に賃貸経営を継続するのであれば、空室対策は早めに見直すべきポイントです。
借入金や金融機関との契約を確認する
親がアパートを建築・購入する際に融資を受けていた場合、借入金の有無を確認する必要があります。
アパートローンが残っている場合、相続人は不動産だけでなく借入金も含めて相続する可能性があります。毎月の返済額、残債、金利、返済期間、団体信用生命保険の有無などを確認しましょう。
団体信用生命保険の有無を確認する
アパートローンに団体信用生命保険が付いている場合、契約内容によっては、借入金が保険で完済される可能性があります。
ただし、すべてのローンに団体信用生命保険が付いているわけではありません。また、加入していても保障内容や条件によって扱いが異なります。
そのため、金融機関に連絡し、ローン契約書や返済予定表、保険加入状況を確認することが大切です。
借入金の状況を把握しないまま相続すると、思っていたよりも収支が厳しいことに後から気づく場合があります。
火災保険・地震保険の内容を確認する
相続したアパートでは、火災保険や地震保険の契約内容も確認が必要です。
保険契約者が亡くなった親のままになっている場合、相続後に名義変更や契約内容の確認が必要になることがあります。
補償内容が現在の建物に合っているか確認する
火災保険では、火災だけでなく、台風、豪雨、漏水、破損、盗難などが補償対象になっている場合があります。ただし、契約内容によって補償範囲は異なります。
築年数が古いアパートでは、漏水事故や設備不良が発生するリスクもあります。万が一の事故に備えるためにも、補償内容が現在の建物状況に合っているかを確認しましょう。
また、保険金額が不足していないか、免責金額がいくらか、施設賠償責任保険が付いているかも確認しておくと安心です。
共用部で入居者や第三者がケガをした場合など、建物所有者として責任を問われる可能性もあります。保険は単なるコストではなく、賃貸経営を守るための重要な備えです。

相続税・所得税・固定資産税の確認も忘れない
賃貸アパートを相続した場合、税金面の確認も欠かせません。
まず、相続税の申告が必要かどうかを確認する必要があります。相続税には基礎控除がありますが、不動産の評価額や預貯金、株式、生命保険金などを含めた相続財産の総額によっては、申告が必要になる場合があります。
相続税の申告期限は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限があるため、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
家賃収入に関する所得税も確認する
アパートを相続した後も賃貸経営を続ける場合、家賃収入は相続人の所得になります。
そのため、相続後の家賃収入については、不動産所得として確定申告が必要になる場合があります。経費として計上できるもの、減価償却、修繕費、管理費、借入金利息などの扱いについては、税理士に確認すると安心です。
また、固定資産税や都市計画税の納付も継続して発生します。納税通知書の送付先が亡くなった親の住所のままになっている場合は、自治体への手続きも確認しましょう。
相続登記を早めに進める
不動産を相続した場合は、相続登記も必要です。
相続登記とは、亡くなった方の名義になっている不動産を、相続人の名義に変更する手続きです。相続登記をしないまま放置すると、売却や融資、建替え、管理契約の変更などを進める際に支障が出ることがあります。
また、相続人がさらに亡くなると、関係者が増えて権利関係が複雑になり、手続きがより大変になることもあります。
相続登記は義務化されているため、不動産を相続した場合は早めに司法書士へ相談することをおすすめします。
相続人が複数いる場合は、意思決定のルールを決める
親のアパートを兄弟姉妹など複数人で相続する場合は、意思決定のルールを決めておくことが重要です。
賃貸アパートは、所有して終わりではありません。空室募集、修繕、賃料改定、売却、管理会社の変更、入居者トラブルへの対応など、継続的な判断が必要になります。
相続人の間で意見が分かれると、必要な修繕が進まなかったり、空室対策が遅れたり、売却するか保有するかで揉めたりする可能性があります。
共有名義には注意が必要
不動産を複数人の共有名義にすると、それぞれが権利を持つことになります。一見公平に見えますが、実務上は判断が難しくなるケースもあります。
たとえば、一人は売却したい、一人は賃貸を続けたい、一人は修繕費を出したくないというように、考え方が分かれることがあります。
共有名義にする場合は、誰が代表して管理会社とやり取りをするのか、修繕費はどのように負担するのか、家賃収入はどのように分配するのかを明確にしておくことが大切です。
将来的なトラブルを避けるためにも、相続人間で早めに方針を話し合い、必要に応じて税理士や司法書士、弁護士などの専門家に相談しましょう。

賃貸経営を続けるか、売却するかを判断する
親のアパートを相続した後は、賃貸経営を続けるのか、売却するのかを検討する必要があります。
感情的には「親が残してくれた不動産だから持ち続けたい」と考える方も多いでしょう。しかし、賃貸経営は事業です。収支、築年数、修繕費、空室率、借入金、立地、将来の需要などを冷静に確認することが大切です。
継続する場合の確認ポイント
賃貸経営を続ける場合は、現在の収支が安定しているかを確認しましょう。
年間家賃収入から、管理費、修繕費、固定資産税、保険料、借入返済、広告費などを差し引いた実質的な利益を把握する必要があります。
表面上は家賃収入が多く見えても、修繕費や空室損が大きい場合、実際の手残りは少ないことがあります。
また、今後10年程度で必要になる修繕費も見込んでおくことが大切です。築年数が古い物件では、外壁、防水、給排水管、室内設備の更新など、大きな費用が発生する可能性があります。
売却する場合の確認ポイント
売却を検討する場合は、現在の入居状況、収益性、土地の価値、建物の状態を踏まえて判断します。
満室で収益性が高い物件は、収益物件として評価される可能性があります。一方で、空室が多い、修繕が必要、築年数が古いといった場合は、売却価格に影響することがあります。
また、売却時には譲渡所得税が発生する場合があります。取得費や譲渡費用、所有期間などによって税額が変わるため、売却前に税理士へ相談することをおすすめします。
管理会社に相談するメリット
親のアパートを相続したとき、相続人だけで全てを確認するのは簡単ではありません。
特に、相続人が賃貸経営の経験を持っていない場合、どこに問題があるのか、何を優先すべきなのか判断しにくいことがあります。
そのようなときは、管理会社に相談することで、物件の現状を整理しやすくなります。
管理会社が確認できること
管理会社では、入居状況、滞納状況、募集条件、賃料相場、修繕履歴、建物管理の状況、今後の空室対策などを確認できます。
また、現在の管理体制に問題がある場合は、管理内容の見直しや改善提案を受けることもできます。
たとえば、家賃が相場より低い、募集写真が弱い、空室期間が長い、修繕対応が遅い、入居者対応の記録が残っていないといった課題は、相続人だけでは気づきにくい部分です。
管理会社に相談することで、相続したアパートを「何となく引き継ぐ」のではなく、今後どう運用していくべきかを判断しやすくなります。
親のアパートを相続したときのチェックリスト
最後に、親のアパートを相続したときに確認したい項目を整理します。
まず、物件の所在地、建物情報、登記内容、固定資産税評価額を確認します。
次に、各部屋の入居状況、賃貸借契約書、家賃、敷金、更新時期、保証会社の有無を確認します。
そのうえで、家賃の入金口座、滞納の有無、管理会社との契約内容、修繕履歴、火災保険、借入金の有無を確認しましょう。
さらに、相続税の申告が必要か、相続登記をどう進めるか、相続人間で誰が窓口になるかを決めることも大切です。
これらを一つずつ整理することで、相続後の混乱を防ぎ、賃貸経営を安定させることにつながります。
まとめ
親のアパートを相続した場合、まず大切なのは「現状を正しく把握すること」です。
相続税や名義変更だけでなく、入居者との契約、家賃の入金状況、滞納、管理会社との契約、修繕履歴、空室状況、借入金、保険、今後の運用方針まで確認すべきことは多岐にわたります。
特に、賃貸アパートは相続した後も入居者が住み続けるため、貸主としての責任がすぐに発生します。対応が遅れると、入居者トラブルや家賃管理の混乱、空室の長期化、修繕費の増加につながる可能性があります。
相続したアパートを今後も保有するのか、売却するのか、管理体制を見直すのかを判断するためには、まず物件の状態と収支を整理することが重要です。
「親から引き継いだアパートをどうすればよいか分からない」「管理会社との契約内容が分からない」「空室や修繕が心配」という場合は、早めに不動産管理会社へ相談することをおすすめします。
相続したアパートは、正しく管理すれば大切な資産になります。一方で、確認不足のまま放置すると、思わぬ負担やトラブルにつながることもあります。
相続をきっかけに、物件の現状を見直し、今後の賃貸経営について考えることが大切です。
