親からアパートを相続したものの、ふたを開けてみると空室が多い。築年数も古く、設備の故障や修繕も増えている。
「このまま持ち続けて大丈夫なのか」
「今のうちに売った方がいいのではないか」
「いっそのこと建て替えた方が収益は改善するのではないか」
相続をきっかけに、このような悩みを抱えるオーナー様は少なくありません。
特に注意したいのは、「親が長年所有していたから、とりあえずそのまま持つ」という判断をしてしまうことです。
相続前には問題なく運営できていたアパートでも、築年数の経過や周辺の賃貸市場の変化によって、相続した時点では経営環境が大きく変わっているケースがあります。
一方で、空室が多いからといって、すぐに売却や建て替えを選択すればよいわけでもありません。募集条件や管理方法を見直すだけで収益が改善する物件もあります。
今回は、相続したアパートについて「売る・持つ・建て替える」の3つの選択肢を、どのように判断すればよいのかを分かりやすく解説します。
まず確認したいのは「空室の原因」
相続したアパートに空室が多い場合、最初に確認したいのは、
「なぜ空室になっているのか」
という点です。
単純に築年数が古いからとは限りません。
たとえば、
・周辺相場より家賃が高い
・募集写真が古い
・室内設備が競合物件より劣っている
・インターネット無料など人気設備がない
・敷金、礼金などの募集条件が厳しい
・原状回復工事に時間がかかっている
・募集している不動産会社が少ない
・管理会社から空室対策の提案がない
といった理由で空室が長期化しているケースもあります。
このような場合、物件そのものの商品力が失われているのではなく、募集方法や管理方法に問題があるだけという可能性があります。
逆に、家賃を下げ、設備を改善し、募集方法を見直しても入居が決まりにくいのであれば、建物や立地そのものについて考え直す必要があります。
そのため、「売る・持つ・建て替える」を判断する前に、まず現在の空室について原因分析を行うことが重要です。
「満室ならいくら残るのか」を計算してみる
次に確認したいのが、そのアパート本来の収益力です。
ここで重要なのは、単純な家賃収入だけを見るのではなく、最終的に手元にいくら残るのかを確認することです。
たとえば年間家賃収入が600万円あったとしても、
・管理費
・共用部の電気代
・清掃費
・固定資産税
・火災保険料
・設備修理費
・原状回復費
・外壁、屋上、給排水設備などの修繕費
などが発生します。
さらに築年数が古くなるほど、給湯器、エアコン、配管、屋上防水、外壁など、まとまった修繕費が必要になる可能性も高くなります。
したがって、
現在の収入 − 現在の支出
だけではなく、
今後10年間程度で予想される修繕まで含めて考える
ことが大切です。
現在多少利益が出ていても、数年以内に大規模修繕が必要であれば、実質的な収益性はそれほど高くない可能性があります。
反対に、空室はあるものの建物状態が良く、適切な募集を行えば改善が期待できるのであれば、急いで売却する必要はないかもしれません。

選択肢①「持つ」が向いているアパート
まず、引き続き保有する選択肢です。
次のような物件は、比較的「持つ」という判断を検討しやすいでしょう。
空室改善の余地が大きい
現在の空室が、物件そのものではなく募集条件や管理方法に原因がある場合です。
たとえば周辺相場が8万円なのに9万円で募集している、築年数が古いにもかかわらず設備更新をしていない、写真や募集図面の内容が十分ではないといったケースです。
こうした物件は、家賃設定や設備、募集方法などを改善することで入居率が上がる可能性があります。
今後も賃貸需要が期待できる
駅から近い、生活利便性が高い、大学や企業があるなど、一定の賃貸需要が見込まれるエリアであれば、築年数が古くても経営を続けられるケースがあります。
築年数だけで判断するのではなく、
「このエリアで、この間取りを借りたい人が今後もいるか」
という視点が重要です。
大きな修繕が一巡している
最近、外壁塗装や屋上防水、給排水設備などの大きな修繕を実施している場合は、しばらく大規模な支出が発生しにくい可能性があります。
このような物件で安定した家賃収入を確保できるのであれば、保有を続けるメリットは十分考えられます。
選択肢②「売る」が向いているアパート
一方、次のような状況では売却も有力な選択肢になります。
今後の修繕負担が大きい
築年数が経過すると、修繕費は室内だけでは済まなくなります。
外壁、屋根、防水、給排水管、共用設備など、建物全体に関わる工事が必要になるケースがあります。
これから大きな資金投入が必要になる一方で、家賃収入の改善があまり期待できないのであれば、
「修繕して持ち続けることが本当に得なのか」
を考える必要があります。
相続人自身が賃貸経営を続ける予定がない
賃貸経営は、不動産を持っているだけで完結するものではありません。
修繕判断、家賃設定、入居者募集、契約更新、退去、トラブル対応など、継続的な意思決定が必要です。
管理会社へ委託することはできますが、最終的な経営判断をするのはオーナーです。
相続人本人が賃貸経営に関心がない場合や、将来的に子どもへ引き継ぐ予定もない場合には、売却して資産を整理することも一つの考え方です。
土地としての価値が高い
建物の収益性は低くても、土地の価値が高いケースがあります。
特に立地の良い物件では、
「古いアパートとして保有する価値」
と
「土地・収益不動産として売却する価値」
を分けて考えることが重要です。
不動産会社へ査定を依頼する場合も、「現在の収益物件としての価格」だけではなく、土地として見た場合や、開発・建て替えを前提とした場合の価値についても確認しておくと判断材料が増えます。
選択肢③「建て替える」が向いているアパート
築古アパートを相続した際、多くの方が一度は考えるのが建て替えです。
新築になれば、
・設備が新しくなる
・入居募集がしやすくなる
・間取りを現在のニーズに合わせられる
・修繕リスクを一定期間抑えやすくなる
といったメリットがあります。
ただし、建て替えは3つの選択肢の中でも特に慎重な検討が必要です。
「今と同じ建物が建つ」とは限らない
古いアパートでは、建築された当時と現在で建築に関するルールが変わっていることがあります。
建て替える場合には、
・用途地域
・建ぺい率
・容積率
・前面道路
・接道状況
・高さ制限
・地区計画
などを確認する必要があります。
たとえば建築基準法では、建物の敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接することが求められています。例外的な扱いもあるため個別確認が必要ですが、古い建物を取り壊した結果、想定していた建物を建築できない可能性もあります。
そのため、
「築古だから取り壊して新築にしよう」
と解体を先行させるのは避けた方がよいでしょう。
まず建築会社や不動産会社などへ相談し、どの程度の建物が建築できるのかを確認した上で事業収支を作成することが重要です。

建て替えは「新築後の家賃」ではなく投資回収で考える
建て替えを検討するとき、新築後の家賃に目が向きがちです。
しかし重要なのは、
「建て替えに使ったお金を、何年かけて回収できるのか」
という点です。
建物を新しくして年間家賃収入が増えたとしても、多額の建築費を投入しているのであれば、必ずしも投資効率が良いとは限りません。
さらに、
・既存入居者の退去
・建物解体
・設計
・建築
・新規募集
までには一定の期間が必要です。
その間は、基本的に現在得られている家賃収入が減少またはなくなることになります。
そのため、
「新築なら満室になるだろう」
だけではなく、
建築費、借入金、金利、想定家賃、想定入居率、運営費、将来の修繕費まで含めた事業収支を作ることが重要です。
相続した直後だからこそ「売却時の税金」も確認する
相続物件を売却する場合、売却価格だけで判断しないことも重要です。
不動産を売却して利益が出た場合には、譲渡所得に対する税金が発生する可能性があります。
また、一定の要件を満たす相続財産については、納付した相続税の一部を売却時の取得費に加算できる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が設けられています。適用には、相続税が課税されていることや、一定期間内に売却することなどの条件があります。
そのため、
「いくらで売れるか」
だけではなく、
「税金や売却費用を差し引いたあと、いくら手元に残るのか」
まで確認して比較することが大切です。
税務上の取り扱いは相続状況や売却時期などによって異なるため、具体的な売却を検討する際には税理士などの専門家へ確認することをおすすめします。
相続したら名義の確認も忘れずに
不動産を相続した場合には、経営判断とあわせて所有者名義についても確認しておきましょう。
2024年4月1日から相続登記は義務化されており、原則として、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
特に兄弟姉妹など複数人で相続している場合には注意が必要です。
売却や大規模修繕、建て替えを検討する際、共有者間で意見が分かれると意思決定に時間がかかることがあります。
相続後のアパート経営では、物件の収益性だけではなく、
「誰が所有するのか」
「誰が経営判断をするのか」
という点も整理しておくことが重要です。

「売る・持つ・建て替える」は同じ条件で比較する
判断に迷った場合は、それぞれを別々に検討するのではなく、同じ期間で比較してみると分かりやすくなります。
たとえば今後10年間について、
持つ場合
現在の家賃収入から、空室損失、管理費、税金、修繕費などを差し引き、10年間でどの程度の収益が残るのかを計算します。
売る場合
現在の売却査定額から、売却費用や税金などを差し引き、最終的にいくら手元に残るのかを確認します。
建て替える場合
建築費、借入金、金利、建築期間中の収入減少などを考慮し、新築後の家賃収入からどれだけ利益が残るのかを計算します。
こうして数字を並べると、
「何となく持っていた方が安心」
「新築にすれば儲かりそう」
といった感覚ではなく、客観的に判断しやすくなります。
たとえばこんなケースではどう考える?
たとえば、親から築30年以上のアパートを相続したとします。
全8戸のうち3戸が空室。
外壁修繕もそろそろ必要で、室内設備も古くなっています。
この状況だけを見ると、「売却した方がいい」と考えるかもしれません。
しかし調査してみると、駅から徒歩圏内で、周辺の類似物件は一定の入居率を維持していることが分かったとします。
さらに現在の募集条件を確認すると、周辺相場より家賃が高く、室内写真も古く、設備も長期間見直されていなかった。
このような場合には、すぐに売却するのではなく、
・募集家賃の見直し
・設備交換
・室内リフォーム
・募集写真の刷新
・募集会社への情報発信強化
などを行い、一度収益改善を試してから売却を判断する方法もあります。
反対に、周辺でも空室が増えており、大規模修繕にもまとまった費用が必要で、今後の賃料上昇も期待しにくい場合には、追加投資する前に売却した方が合理的なケースもあります。
つまり重要なのは、
「今の空室数」だけで結論を出さないことです。
相続したアパートは「過去」ではなく「これから」で判断する
親が長年大切にしてきたアパートを相続すると、
「せっかく残してくれた物件だから売りたくない」
と感じることもあるでしょう。
もちろん、その気持ちは非常に大切です。
ただし、不動産経営という視点では、
「これまでいくら稼いできたか」
ではなく、
「これからどれだけ収益を生み、どれだけ費用がかかるのか」
で判断する必要があります。
築年数が古くても、立地が良く、空室改善の余地があり、適切な修繕を行えば長く保有できる物件もあります。
一方で、過去には高収益だったアパートでも、今後多額の修繕費が必要で、賃貸需要も弱くなっているのであれば、売却や建て替えを検討した方がよい場合もあります。
まとめ
相続したアパートに空室が多い場合、すぐに「売る」「建て替える」と結論を出す必要はありません。
まず確認したいのは、
・なぜ空室になっているのか
・適正な家賃はいくらなのか
・満室になった場合、実際にいくら利益が残るのか
・今後どのような修繕が必要なのか
・周辺の賃貸需要は今後も期待できるのか
・現在売却するといくらになるのか
・建て替えた場合の事業収支はどうなるのか
といった点です。
そして、
「持った場合の収益」
「売った場合に残る金額」
「建て替えた場合の収益」
を同じ条件で比較することが大切です。
特に相続した物件は、以前のオーナーの運営方法をそのまま引き継いでいるケースも多く、管理方法や募集条件を一度見直すだけでも、物件に対する評価が変わることがあります。
空室が多いから売却するのではなく、まずは現在の賃料査定、空室原因、修繕状況、将来収支などを整理してみましょう。
そのうえで「保有」「売却」「建て替え」のどれが適しているのかを比較することが、相続した大切な資産を有効に活用する第一歩です。
判断に迷う場合には、現在の管理状況だけでなく、賃料査定や空室改善の可能性、売却価格、将来の修繕計画まで含めて管理会社や不動産会社へ相談し、複数の選択肢を比較してみることをおすすめします。
