序章:パンデミック後の「逆転現象」とオーナーの疑問
私たち不動産オーナーは、この数年間にわたり、市場の激しい変化に直面してきました。
2020年〜2021年のパンデミック初期には、「リモートワークの普及」と「ロックダウン」という要因が、**「都心離れ」**という新たなトレンドを生み出しました。
「満員電車から解放されたい」「広い家に住みたい」という動機で、郊外や地方都市への移住が加速し、都心の賃貸需要の弱含みや、オフィスビルの空室率悪化が懸念されたのは記憶に新しいでしょう。
しかし、2023年以降、市場は明確な**「逆転現象」**を見せています。
東京都心(特に港区、千代田区、渋谷区など)のレジデンス賃料は過去最高水準を更新し、多くのエリアで空室率が歴史的な低水準にあります。また、一時は「不要論」さえ囁かれた都心のオフィスビルも、空室率が改善基調に転じ、特に築年数の新しいハイグレード物件では賃料の下落が止まり、上昇に転じる動きすら見られます。
なぜ、市場は再び都心回帰を加速させているのか。そして、この不可逆な流れの中で、オーナーとしていかに資産価値を最大化し、リスクを回避すべきか。本コラムでは、この**「都心回帰」と「オフィス需要復調」の構造的なメカニズム**を解析し、具体的な投資戦略を提示します。
第1章:都心回帰の再定義と加速要因
一時の郊外移住ブームが落ち着き、再び都心への集中が加速している背景には、単なる「通勤の再開」だけではない、人々の価値観と経済活動の変化があります。
A. 若年層の価値観の変化:「タイパ」と「リアル交流」重視
現代の特にミレニアル世代やZ世代は、「タイムパフォーマンス(タイパ)」を極度に重視する傾向があります。
- 移動時間の無駄の排除:郊外からの通勤は、往復で2〜3時間にも及びます。リモートワークと出社が混在する「ハイブリッドワーク」において、この移動時間は「仕事でもプライベートでもない非生産的な時間」と見なされます。都心に住むことで、通勤時間をゼロに近づけ、趣味や自己啓発、副業に充てたいという動機は極めて強力です。
- リアル交流への渇望:パンデミック中に失われた「偶発的な出会い」や「非公式なコミュニケーション」への欲求が再燃しています。都心は、仕事だけでなく、ネットワーキング、高付加価値な体験型消費(飲食店、劇場、美術館など)のハブであり、この「リアルな刺激」を求めて人々が戻ってきています。
B. 郊外移住の「副作用」の顕在化
郊外・地方移住は、当初のメリット(広さ、自然)だけでなく、以下の「副作用」も顕在化させました。
- 生活インフラの格差: 都心に比べ、病院、教育、商業施設の利便性や選択肢の少なさに直面。
- 地域コミュニティへのコミットメント: 地方に移住したものの、想定していたほど地域コミュニティに溶け込めず、孤立感を覚えるケース。
- 通勤とリモートのアンバランス: 週に数回の出社が、かえって「中途半端な通勤負担」となり、都心移住のメリットを再認識させる結果となりました。
これらの要因から、特に利便性を最優先する単身者・DINKS層が、再び都心部の駅近物件へと回帰し、賃貸市場を強く押し上げています。

第2章:オフィス需要復調のメカニズム
オフィス市場の復調は、単なる「出社強制」ではなく、企業が競争力を維持・向上させるための戦略的な選択として捉えるべきです。
A. 「リモート回帰」から「ハイブリッドワーク」へ:最適解の模索
企業は、リモートワークの「効率化」というメリットを享受しつつも、以下のデメリットが看過できないレベルになったと判断しました。
- 生産性の頭打ち: リモート下でのルーティン業務の効率は高い一方、新規事業開発や複雑な問題解決のためのブレインストーミングや偶発的な情報共有の質が低下。
- イノベーションの停滞: 部署やプロジェクトを超えた社員同士の**「セレンディピティ(予想外の幸運な出会い)」**が激減。
- 企業文化の希薄化: 新入社員のOJT(オンザジョブトレーニング)や、組織の理念共有が困難になり、帰属意識の低下を招来。
結果として、多くの企業が「ハイブリッドワーク」を最適解とし、そのための**「オフィス空間」を再定義**し始めました。
B. 企業側の視点:生産性の確保、イノベーション、人材採用競争
企業が都心の一等地にオフィスを構える理由は、単に業務を行う場所ではなくなっています。
- タレント・アクイジション(人材獲得競争):優秀な人材、特にデジタル技術を持つ若年層は、**「通勤の利便性」と「職場の魅力」を最重要視します。都心一等地の最新鋭オフィスは、企業が自社のブランドイメージを高め、優秀な人材を引きつけ、定着させるための「戦略的なコスト」**となっています。
- BCP(事業継続計画)とESG:最新の都心オフィスは、耐震性、自家発電装置、情報セキュリティにおいて、地方や老朽化ビルとは比較にならない高い水準にあります。また、環境性能(LEEDやCASBEE認証など)を持つオフィスは、ESG投資を意識する大企業にとって不可欠な選択肢です。
- オフィスの「質の変化」:コア・フレキシブル戦略
現在のオフィス需要は、単に「広い床」を求めるのではありません。オフィスは、集中作業を行う**「コアスペース」と、チームビルディングやミーティング、ネットワーキングを行う「フレキシブルスペース」**に分割されています。
企業は、業務のデジタル化によって**「コアスペース(個人デスク)」の面積を削減しつつ、その分を「フレキシブルスペース(会議室、コラボレーションエリア、ラウンジ)」**に投資し、社員が「行きたくなる」オフィスへと転換を図っています。
この「質の変化」こそが、ハイグレードで立地の良い都心オフィスへの需要を押し上げ、一方で地方や老朽化ビルの需要を冷え込ませる「二極化」を加速させているのです。
第3章:不動産投資への影響と戦略
都心回帰とオフィス需要の復調は、不動産市場の各セグメントに明確な影響を与えています。オーナー様は、自身の保有物件がどの波に乗っているのかを冷静に見極める必要があります。
A. レジデンス(住宅)市場への影響
| 市場セグメント | 影響の方向性 | オーナー戦略のポイント |
| 都心・駅近(単身・DINKS向け) | 賃料上昇圧力が強い | 需要層は「タイパ」重視。セキュリティ、高速ネット環境、駅からの近さが最重要。設備グレードアップを優先。 |
| 郊外・築古(ファミリー向け) | 賃料停滞・下落リスク | 競争優位性の確保が必須。ターゲットを「真のリモートワーカー」に絞り、広いワークスペースやオンライン会議用防音設備などの付加価値が重要。 |
| 短期滞在型(SA/民泊) | 需要復調・高収益化の可能性 | 企業の出張・プロジェクト利用やインバウンド需要の増加で、SA(サービスアパートメント)需要が回復。許可を得た上での運用が有効な高利回り戦略となる。 |
B. オフィス・商業市場への影響
オフィス市場は「立地」と「スペック」による二極化が極端に進んでいます。
- ハイクラスオフィス(A/B+):都心一等地(丸の内、大手町、渋谷、六本木など)の最新鋭ビルは、上記の戦略的な企業需要が集中するため、空室率が低下し、賃料が上昇しています。これは、不動産の「質」に対するプレミアムがより大きくつくことを意味します。
- 老朽化ビル・地方オフィス:BCP/ESG対応が不十分なビルや、主要駅から離れたビルは、テナントの退去が進み、空室率が高止まりしています。競争力が著しく低下しており、大規模なリニューアルや用途変更(例:レジデンスへのコンバージョン)の検討が不可欠です。
商業施設は、オフィスワーカーの出社により**「ついで消費」**が復活しています。都心オフィスの低層階や駅直結の商業施設では、ランチ需要、仕事終わりの会食需要が戻り、テナントの売上・賃料支払い能力が改善傾向にあります。

第4章:オーナーが今、取るべき具体的な戦略
この構造的な変化をチャンスに変えるために、不動産オーナー様が取るべき具体的な戦略をレジデンスとオフィスに分けて解説します。
A. 既存レジデンスの競争力強化
ターゲットを「都心回帰組」に設定し直し、そのニーズを満たす改修を行います。
- 1. 「タイパ」を極める設備投資:
- 高速インターネット環境の整備: (必須) 入居者が自分で回線業者を選ぶのではなく、建物全体で最高の回線速度を提供できる環境を整備し、物件の差別化を図る。
- 宅配ボックスの容量拡大: 不在時の受け取りだけでなく、フリマアプリなどの「発送」にも対応できる共用設備を導入。
- 最新のスマートホーム化: IoT対応の給湯器、エアコン、玄関錠の導入(賃料アップの根拠とする)。
- 2. 「リアル交流」をサポートする共用部:
- 都心の狭小物件では、入居者が友人や知人を招くスペースが不足しがちです。共用部に、少人数でのリモート会議や、入居者同士の交流に使える**「共用ラウンジ(ワーキングスペース兼)」**を設けることで、入居者満足度を高めます。
B. オフィスビル投資の戦略転換
老朽化したビルを保有されているオーナー様は、大胆な戦略転換を検討する時期に来ています。
- 1. ESG対応の徹底(売却・維持のために必須):
- 照明のLED化、高効率エアコンへの更新はもはや当たり前です。建物の断熱性能を高める改修や、太陽光発電の導入など、環境性能を示す国際認証(例:LEED, CASBEE)の取得を目指すことで、機関投資家や大企業への売却・賃貸の選択肢が格段に広がります。
- 2. 「フレキシブル空間」の導入:
- 空室が目立つフロアや使われていない会議室を、**「フレキシブルオフィス(短期貸し、コワーキングスペース)」**運営事業者に賃貸することも有効な戦略です。テナント層の多様化と、不安定な空室率の緩和に繋がります。
C. 出口戦略の見直し:プレミアムの維持
都心回帰の波は、特に**「立地が良く」「築浅」**の物件に大きなプレミアムをもたらしています。
- 都心・築浅物件: 過去の借入金利が低かったオーナー様は、高い家賃収入と、上昇した物件評価額により、売却益の最大化が図りやすい状況です。この波に乗った**売却(キャッシュ化)**と、別の資産への組み換え(例:地方の特定用途特化型物件への分散)も選択肢として検討すべきです。
- 地方・築古物件: 今後の金利上昇やインフレにより、修繕費や維持費が増加するリスクがあります。立地が悪い物件は、賃料維持が困難になる前に、用途変更(例:倉庫、トランクルーム)や早期売却を視野に入れるなど、厳格なポートフォリオ見直しが必要です。
終章:「利便性」と「持続可能性」の融合こそが、都心投資の鍵
「都心回帰」と「オフィス需要の復調」は、一時的な反動ではなく、より高度に情報化・効率化された社会における**「最適な生活と経済活動の形」**を模索した結果です。
オーナー様にとって、このコラムで提示した最大の教訓は、**「不動産の二極化」**が不可逆的に進行しているという事実です。
今後は、単に「都心にある」というだけでなく、**「高すぎる利便性(タイパ)」と「環境・災害に強い持続可能性(ESG/BCP)」**という二つの要素が融合した物件にのみ、高いプレミアムが付与され続けます。
ご自身の保有物件が、この「都心の成功者」の基準を満たしているか、あるいは満たすための戦略的投資を怠っていないか、定期的な見直しを行うことが、ポスト・パンデミック時代を勝ち抜くための鍵となるでしょう。
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