退去が発生すると、多くのオーナーがまず考えるのが「原状回復をどうするか」です。
クロスを張り替える。
床を補修する。
壊れた設備を交換する。
ハウスクリーニングを入れる。
もちろん、どれも必要な作業です。
しかし、原状回復の目的は、単に部屋をきれいにすることではありません。
本当に重要なのは、
「次の入居者に選ばれる状態まで、できるだけ早く整えること」
です。
せっかく費用をかけて原状回復をしても、工事内容が募集ニーズと合っていなかったり、工事完了までに時間がかかりすぎたりすれば、空室期間が長くなってしまうことがあります。
今回は、原状回復を「修繕費」としてだけ見るのではなく、空室期間を短くするための投資として考えるポイントを解説します。
原状回復で一番もったいないのは「工事後も決まらない」こと
原状回復費について、
「なるべく安くしたい」
と考えるのは当然です。
しかし、安く工事を終えることが、必ずしも賃貸経営全体の利益につながるとは限りません。
例えば、原状回復費を10万円抑えられたとしても、その結果として空室期間が1か月、2か月と長くなれば、家賃収入の減少によって、かえって損失が大きくなる場合があります。
反対に、必要な部分に適切な費用をかけることで、募集開始後すぐに申込みが入れば、工事費が多少増えても結果的には収支が良くなることもあります。
つまり大切なのは、
「工事費がいくらか」ではなく、「その工事が次の入居につながるか」
という視点です。
1.まず確認したいのは「どこまで直せば募集できるか」
退去後の部屋を見ると、
「全部きれいにした方がいいのでは」
と思ってしまうことがあります。
しかし、必ずしもすべてを新品にする必要はありません。
例えば、
・まだ十分使えるエアコン
・目立たない小さな床傷
・使用上問題のない建具
・部分補修で対応できるクロス
まで交換してしまうと、工事費が大きくなります。
一方で、
・内見時に目立つ大きな汚れ
・古さを強く感じる設備
・水まわりの劣化
・におい
・照明が暗い
・清掃不足
などは、入居希望者の印象を大きく左右します。
「全部直す」ではなく「印象を落とす場所を直す」
原状回復では、
「どこまで新品にするか」ではなく、「どこが入居判断のマイナスになるか」
を考えることが重要です。
例えば、クロスを全面張り替えなくても、目立つ一面だけを張り替えることで印象が大きく変わる場合があります。
また、古い照明を明るいLED照明に変更するだけで、部屋全体が明るく見えることもあります。
限られた予算の中で、どこに費用をかけると最も印象が改善するのか。
ここを考えることが原状回復では重要です。
2.募集条件を決めてから工事内容を考える
原状回復工事を先に決めてから募集するのではなく、
「どのような入居者に、いくらで貸したいのか」
を先に考える方法もあります。
例えば、
駅徒歩5分
1K
20㎡
築20年
単身者向け
という物件であれば、豪華な設備を追加して高額なリフォームをしても、その工事費を家賃に反映できない可能性があります。
一方で、
ファミリー向け
長期入居が期待できる
周辺に競合物件が多い
という場合には、
独立洗面台
温水洗浄便座
モニター付きインターホン
宅配ボックス
など、入居者ニーズに合った設備改善が効果を発揮する場合があります。
「この部屋ならいくらで募集できるか」を確認する
工事前に管理会社へ、
「現在の状態ならいくらで募集できるか」
「この設備を交換したら家賃を上げられるか」
「このエリアで入居者が重視している設備は何か」
を確認してみることをおすすめします。
例えば、
10万円かけて設備交換しても家賃が変わらない
のであれば、その工事が本当に必要かを再検討できます。
逆に、
設備を追加することで家賃を3,000円上げられる可能性がある
のであれば、長期的な収益を考えて工事を行う判断もできます。

3.工事完了を待ってから募集を始める必要はない
空室期間を長引かせないためには、
原状回復工事と募集活動を同時に進める
ことも重要です。
よくあるのが、
退去
↓
見積
↓
オーナー承認
↓
工事発注
↓
工事完了
↓
写真撮影
↓
募集開始
という流れです。
この場合、工事完了まで2週間かかったとすると、その2週間は募集活動がほとんど進んでいないことになります。
工事中でも募集できる場合がある
物件の状況によっては、
退去後すぐに間取りや過去の写真を使って募集を開始する
という方法もあります。
また、
「○月○日工事完了予定」
として募集することもできます。
もちろん、物件の状態や募集方法によって対応できるかどうかは異なります。
しかし、
「工事が終わるまで何もしない」
という期間をできるだけ短くするだけでも、空室期間を縮められる可能性があります。
4.見積承認に時間をかけすぎない
原状回復では、管理会社や工事会社から見積書が届きます。
オーナーとしては、
「本当にこの工事が必要なのか」
「金額は妥当なのか」
を確認する必要があります。
ただし、見積の確認に何週間もかかると、その分工事開始が遅れてしまいます。
例えば、
見積作成に3日
オーナー確認に7日
工事手配に3日
工事に7日
となれば、退去から20日程度が経過します。
その後に募集写真を撮影して募集を開始すると、さらに空室期間が伸びる可能性があります。
見積は「必要・不要」を分けて見る
見積書を見るときは、
今すぐ必要な工事
と
将来的に検討できる工事
を分けると判断しやすくなります。
例えば、
今すぐ必要
・清掃
・故障設備交換
・大きなクロス汚れ
・床の危険な傷
後でも検討可能
・収納追加
・デザインクロス
・設備グレードアップ
といった形です。
まず募集できる状態まで早く整える。
そのうえで、必要に応じて追加工事を検討するという方法もあります。
5.「写真映え」まで考えて原状回復する
現在の賃貸募集では、入居希望者が最初に物件を見る場所は、実際の部屋ではなくインターネットであることが多くなっています。
そのため、
募集写真でどう見えるか
も非常に重要です。
例えば、
クロスはきれいでも照明が暗い
床が古く見える
荷物や工具が残っている
清掃後なのに水まわりに水滴が残っている
といった状態では、写真の印象が悪くなることがあります。
入居者は数秒で比較する
物件検索サイトでは、入居希望者が複数の物件を短時間で比較します。
そのため、
「なんとなく暗い」
「なんとなく古い」
という第一印象だけで、候補から外れてしまうこともあります。
原状回復時には、
・明るさ
・床の見え方
・水まわりの清潔感
・収納の見せ方
・照明
なども意識しておくことが重要です。
6.設備交換は「家賃アップ」だけで判断しない
設備交換を検討するとき、
「この設備を交換したら家賃はいくら上げられるか」
という考え方があります。
もちろん重要な視点ですが、それだけではありません。
例えば、古い給湯器やエアコンを交換しても、家賃が上がらないことがあります。
しかし、
入居後すぐに故障するリスクを減らせる
入居者からのクレームを減らせる
管理会社の対応回数を減らせる
長期入居につながる
といったメリットがあります。
つまり、
設備交換の効果は家賃アップだけではない
ということです。
特に築年数が経過している物件では、
「壊れてから交換する」
のではなく、
退去時に計画的に交換する
という考え方も重要になります。
7.原状回復の工期そのものを管理する
原状回復工事で見落とされやすいのが「工期」です。
工事費が安くても、
工事開始まで2週間
工事期間が2週間
かかれば、その間は空室です。
例えば家賃10万円の部屋の場合、単純計算では1か月空室になると10万円の家賃収入が失われます。
そのため、
A社
工事費20万円
工期7日
B社
工事費18万円
工期21日
という場合、
必ずしもB社の方が経済的とは限りません。
工事費+空室損失で考える
工事会社や管理会社を比較するときは、
「工事費がいくら安いか」
だけではなく、
「何日で募集できる状態になるか」
も確認してみましょう。
賃貸経営では時間もコストです。
原状回復のスピードは、空室損失に直結します。

8.退去前から準備できることもある
原状回復は、退去したあとから始める必要はありません。
退去予定が分かった時点で、
・工事会社の予定確認
・過去の修繕履歴確認
・設備交換候補の確認
・募集条件の検討
・家賃査定
などを進めることができます。
例えば、
「給湯器が15年以上使用されている」
と分かっていれば、退去前から交換を検討できます。
また、現在の募集相場を確認しておけば、
「今回は家賃を上げるのか」
「同じ家賃で早く決めるのか」
といった方針も事前に決められます。
退去してからすべてを考えるのではなく、
退去予定が出た段階から次の募集を始める
という意識が大切です。
9.工事を増やす前に「募集条件」を見直す
原状回復を終えても入居が決まらない場合、
「もっとリフォームしなければ」
と考えてしまうことがあります。
しかし、原因が室内ではない場合もあります。
例えば、
・家賃が周辺相場より高い
・初期費用が高い
・広告条件が弱い
・募集写真が少ない
・掲載情報が古い
・内見対応が遅い
といったケースです。
この場合、さらに工事費をかけても効果が出ない可能性があります。
そのため、
工事→募集→反響確認→改善
という流れで考えることが大切です。
原状回復は「修理」ではなく「次の募集の準備」
原状回復という言葉から、
「前の入居者が使った部屋を元に戻す作業」
というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、オーナー側から見ると、
次の入居者を迎えるための商品づくり
とも考えられます。
例えば、
同じ20万円を使う場合でも、
全面クロス張り替えだけに使うのか
照明・水栓・一部クロスを組み合わせるのか
によって、入居希望者が受ける印象は変わります。
重要なのは、
「前と同じ状態に戻したか」
ではなく、
「今の市場で選ばれる状態になっているか」
です。
管理会社に確認したい5つの質問
原状回復の見積が出たときは、管理会社に次のような質問をしてみると判断しやすくなります。
1.この工事は本当に入居前に必要ですか?
すぐ必要な工事と、将来でもよい工事を分けます。
2.この工事で家賃は変わりますか?
賃料アップにつながるのか、現状維持なのかを確認します。
3.競合物件と比べて不足している設備はありますか?
周辺物件との違いを把握します。
4.工事完了まで何日かかりますか?
工事費だけでなく空室期間も考えます。
5.工事前から募集できますか?
募集開始を早められるか確認します。
この5つを確認するだけでも、原状回復の判断はかなり変わります。
まとめ|原状回復は「安く直す」より「早く決める」視点も重要
原状回復では、工事費を抑えることも大切です。
しかし、それだけを優先すると、
工事後も入居が決まらない
募集開始が遅れる
設備トラブルが続く
結果的に空室期間が長くなる
といったこともあります。
原状回復を考えるときには、
- どこまで直せば募集できるか
- 募集条件と工事内容が合っているか
- 工事中から募集できないか
- 見積承認を早くできないか
- 写真映えまで考えられているか
- 設備交換の費用対効果はあるか
- 工期が長くなっていないか
- 退去前から準備できないか
- 工事以外の募集条件に問題がないか
といった点を確認することが重要です。
賃貸経営では、
工事費もコストですが、空室期間もコストです。
数万円安く工事をするために募集開始が遅れ、家賃1か月分を失ってしまえば、結果的には収支が悪くなる可能性があります。
退去が発生したときには、
「いくらで直すか」
だけではなく、
「いつ募集できるか」「どうすれば次の入居につながるか」
まで含めて考えてみてください。
原状回復費が毎回高い、工事完了まで時間がかかる、きれいにしても空室が長引くといった場合には、一度、原状回復から募集開始までの流れそのものを管理会社と見直してみることをおすすめします。
