「購入したときより、かなり物件価格が上がっているらしい」
「不動産会社から売却の提案を受けたけれど、今売るべきなのだろうか」
「家賃は毎月入っているので、このまま持ち続けた方がいい気もする」
賃貸物件を長く所有しているオーナー様の中には、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
実際、近年の不動産市場では地価の上昇が続いています。国土交通省が公表した2026年の地価公示では、全国平均で全用途・住宅地・商業地のいずれも5年連続で上昇しました。東京圏・大阪圏では上昇幅も拡大しています。
そのため、以前より高い価格で売却できる可能性がある物件も少なくありません。
一方で、不動産価格が上がっているからといって、「今すぐ売った方が得」とは限りません。
賃貸物件は、毎月家賃を生み出す収益資産です。高値で売却できたとしても、その後に得られるはずだった家賃収入を手放すことになります。
逆に、「家賃が入っているから持ち続ければいい」と考えるのも注意が必要です。建物の老朽化、修繕費の増加、金利上昇、賃料競争力の低下などにより、数年後には収益性が大きく変わる可能性があります。
大切なのは、現在の売却価格だけを見るのではなく、「今売った場合」と「今後も持ち続けた場合」の両方を数字で比較することです。
今回は、賃貸物件オーナーが「売る・持つ」を判断するときに確認しておきたいポイントを、不動産管理の視点から分かりやすく解説します。
まず知っておきたい、現在の不動産市場
2026年の地価公示では、全国平均で全用途・住宅地・商業地が5年連続で上昇しています。
特に三大都市圏では上昇基調が続いており、東京圏と大阪圏では住宅地・商業地ともに上昇幅が拡大しました。
長期間物件を所有しているオーナー様の場合、購入時と現在とで資産価値が大きく変化していることもあります。
ただし、ここで注意したいのが、
「全国的に地価が上昇している=自分の物件も同じように上がっている」
とは限らないことです。
不動産価格は、
・立地
・駅からの距離
・築年数
・土地面積
・建物構造
・間取り
・賃貸需要
・現在の賃料
・入居率
・建物の管理状態
・将来的な修繕負担
などによって大きく変わります。
同じ駅、同じ築年数の物件であっても、管理状態や収益性によって投資家からの評価が異なることがあります。
そのため、「ニュースで不動産価格が上がっているから売却する」のではなく、まずは自分の所有物件が現在いくらで評価されるのかを把握するところから始めることが重要です。
「売る・持つ」を判断する5つのポイント
1.今売ったら、実際にいくら残るのか
最初に確認したいのが、売却価格ではなく売却後の手残りです。
例えば、不動産会社から「○○万円で売却できそうです」と査定を受けたとしても、その金額がそのままオーナー様の手元に残るわけではありません。
売却時には、
・ローン残債
・仲介手数料などの売却費用
・抵当権抹消などに伴う費用
・譲渡所得に対する税金
などを考える必要があります。
基本的には、
想定売却価格-ローン残債-売却に伴う費用-税金
という考え方で、最終的な手残りを確認します。
売却価格だけを見ると魅力的でも、ローン残債や税金まで計算すると、思ったほど資金が残らないケースもあります。
逆に、長期間所有してローン残債が大きく減っている物件では、売却によってまとまった資金を確保できる可能性があります。
売却を検討するときは、「いくらで売れるか」だけでなく、「売ったあとにいくら残るのか」まで計算することが重要です。
2.今後、毎年いくら利益を生み出せるのか
次に考えたいのが、その物件を持ち続けた場合の収益です。
ここで注意したいのが、「年間家賃収入」だけで判断しないことです。
賃貸経営では家賃収入から、
・管理費
・修繕費
・固定資産税
・火災保険料
・共用部の維持費
・入退去時の原状回復費
・ローン返済
などが発生します。
そのため、判断材料にしたいのは家賃収入そのものではなく、実際にオーナー様の手元に残るキャッシュフローです。
例えば満室経営が続いていたとしても、給湯器やエアコンの交換、外壁工事、防水工事などが重なると、その年の収支が大きく悪化することがあります。
「現在満室だから大丈夫」と考えるのではなく、
これから5年、10年保有した場合に、どの程度の利益が期待できるのか
という視点で考えることが大切です。

3.これから大きな修繕が控えていないか
築年数が経過した物件では、売却価格以上に重要になることがあるのが将来の修繕費です。
賃貸物件では築年数とともに、
・外壁
・屋上、屋根の防水
・給排水設備
・給湯器
・エアコン
・エレベーター
・インターホン
・共用部設備
などの修繕・交換が発生しやすくなります。
ここで考えたいのが、
「現在の年間収益がいくらか」
だけではなく、
「これから必要になる修繕費を差し引いても、保有する価値があるか」
ということです。
現在は安定して利益が出ていたとしても、数年後にまとまった修繕が必要であれば、実質的な収益性は変わります。
反対に、大規模修繕を終えたばかりで、当面大きな支出が見込まれない物件であれば、継続保有という選択肢が有力になることもあります。
物件を売却するか迷ったときには、管理会社に今後の修繕予定を確認し、中長期の修繕計画と一緒に判断することをおすすめします。
4.今後も家賃を維持できる物件なのか
不動産価格だけでなく、「その物件が今後も家賃を生み続けられるか」も重要な判断材料です。
例えば、
・駅から近い
・周辺に賃貸需要がある
・競合物件と比較して設備が充実している
・間取りの需要が安定している
・適切なリフォームが行われている
といった物件であれば、築年数が経過しても一定の賃貸需要を維持できる可能性があります。
一方、
・周辺に新築物件が増えている
・設備が競合物件より古い
・募集するたびに空室期間が長くなっている
・賃料を下げなければ決まりにくくなっている
といった変化が見られる場合は注意が必要です。
現在の家賃だけでなく、
「次の入居募集でも同じ家賃で決まるのか」
という視点で考えてみてください。
特に長期入居者がいる物件では、現在の入居者が退去したときに初めて、市場との家賃差や設備の古さが明確になることがあります。
管理会社が保有している募集反響や周辺成約事例を確認すると、将来の賃料競争力を判断しやすくなります。
5.金利上昇の影響を受けていないか
ローンを利用しているオーナー様にとって、今後特に確認しておきたいのが金利です。
日本銀行は現在、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促す金融市場調節方針としています。
不動産投資ローンの金利がどのように変動するかは、金融機関や契約条件によって異なりますが、変動金利で借り入れている場合には、将来的な返済負担の変化も考えておく必要があります。
例えば、
「家賃収入は変わらないのにローン返済額が増える」
という状況になれば、当然ながら毎月の手残りは減少します。
そのため、
・現在の借入金利
・残りの返済期間
・ローン残高
・金利が上昇した場合の返済額
・現在の家賃収入とのバランス
を一度確認しておくとよいでしょう。
価格が高いうちに売却してローンを整理するのか、それとも家賃収入を確保しながら返済を続けるのか。
これも「売る・持つ」を判断する重要な要素です。

売却前に必ず確認したい「所有期間」
不動産を売却するときには、税金についても確認が必要です。
土地や建物を売却して利益が出た場合、原則として譲渡所得に対して税金がかかります。
国税庁によると、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、適用される税率が異なります。
長期譲渡所得の場合は所得税15%・住民税5%、短期譲渡所得の場合は所得税30%・住民税9%が基本となり、このほか復興特別所得税等についても考慮する必要があります。
つまり、
「あと少し保有すれば税務上の所有期間区分が変わる」
というケースでは、売却時期によって手残りが変わる可能性があります。
ただし、実際の税額は取得費、減価償却、譲渡費用、所有形態などによって異なります。
売却を具体的に検討する際には、不動産会社による売却査定だけでなく、必要に応じて税理士などの専門家にも確認することをおすすめします。
「売却価格が高いから売る」だけでは判断できない
ここまで整理すると、「売る・持つ」の判断では次の2つを比較することが重要だと分かります。
売却した場合
・現在いくらで売れるのか
・ローン残債はいくらか
・売却費用はいくらか
・税金はいくらか
・最終的にいくら手元に残るのか
保有した場合
・年間家賃収入はいくらか
・年間経費はいくらか
・ローン返済後にいくら残るか
・今後どの程度の修繕費が必要か
・家賃を維持できそうか
・将来の売却価格をどう考えるか
この2つを並べて比較します。
つまり、
「今売れば高く売れるか」ではなく、「今売って得られる手残りと、これから保有することで得られる利益のどちらに魅力があるか」
という考え方です。
「売却を検討した方がよい物件」のサイン
一概には言えませんが、例えば次のような条件が重なっている場合には、売却を一度検討してみてもよいでしょう。
・購入時より売却価格が大きく上昇している
・ローン残債が減っている
・今後大きな修繕が控えている
・賃料競争力が低下している
・空室期間が以前より長くなっている
・金利上昇によってキャッシュフローが悪化している
・相続や資産整理を考え始めている
・別の不動産へ資産を組み替えたい
特に重要なのは、1つの要素だけで決めないことです。
例えば「築古だから売る」のではなく、
築古+修繕負担増加+賃料低下+現在の売却価格が高い
といった複数の要素を組み合わせて考えます。

「持ち続ける価値がある物件」の特徴
反対に、次のような物件であれば継続保有が有力な選択肢になることがあります。
・賃貸需要が安定している
・入居率が高い
・家賃が周辺相場と比較して適正
・ローン返済後もしっかり利益が残る
・修繕計画ができている
・大きな修繕がすでに完了している
・今後も家賃維持が期待できる
・ローン残高が順調に減っている
こうした物件を無理に売却する必要はありません。
不動産には、売却益だけでなく、家賃収入を長期間積み上げられるという大きな特徴があります。
高く売れるタイミングだからこそ、「売らない」という判断も立派な投資判断です。
実は重要なのは「売却査定」だけではなく「保有査定」
売却を考えると、多くのオーナー様がまず不動産会社へ売却査定を依頼します。
もちろん、現在の市場価格を知ることは非常に重要です。
しかし、賃貸物件の場合はそれだけでは十分とは言えません。
私たちが特に重要だと考えているのが、
「この物件をこれから持ち続けたらどうなるか」という保有側の査定です。
例えば、
・現在の適正賃料
・次回募集時の想定賃料
・年間収支
・周辺の賃貸需要
・今後必要になる修繕
・設備更新の予定
・空室リスク
などを整理します。
そのうえで、
「今売却する場合」と「5年、10年持ち続ける場合」
を比較してみると、判断材料がかなり増えます。
売却価格だけを査定するのではなく、賃貸経営そのものを査定するという考え方です。
まとめ|「高く売れる今」だからこそ、急いで売らない
不動産価格が上昇していると、
「今が売り時なのでは?」
と考えるのは自然なことです。
実際、2026年の地価公示でも全国的な上昇基調は続いています。
しかし、賃貸物件の場合、売却価格だけで判断するのはおすすめできません。
確認したいのは、
①今いくらで売れるのか
②売却後にいくら手元に残るのか
③今後どれくらい家賃収入を得られるのか
④これからどれくらい修繕費が必要なのか
⑤ローンや金利の負担はどうなるのか
⑥将来も賃貸需要を維持できるのか
という点です。
そのうえで、「売却した場合」と「保有した場合」を比較することが重要です。
特に、長期間所有している賃貸物件については、購入当時と現在では物件価格だけでなく、家賃相場や周辺環境、借入状況、建物状態も変わっています。
「売る予定はまだない」というオーナー様であっても、一度現在の売却価格と賃貸経営の収支を整理してみることで、今後の資産運用方針が見えやすくなります。
管理会社は日々の家賃管理や入居者対応だけを行う存在ではありません。
現在の賃料、募集状況、修繕履歴、周辺市場など、物件を保有し続けるか判断するための情報も蓄積しています。
「売るべきか、持ち続けるべきか迷っている」という場合には、売却査定だけで結論を出すのではなく、まず現在の賃貸経営状況を整理したうえで、管理会社にも相談してみてはいかがでしょうか。
